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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(し)14号 決定

少年H(昭二二・一〇・二九生)

主文

本件再抗告を棄却する。

理由

本件再抗告の趣意は別紙書面記載のとおりである。

論旨中憲法三八条違反をいう点があるけれども、本件少年が自己に不利益な供述を強要されたと認むべき資料は記録上存しないし、又原決定は右少年の供述を唯一の証拠としているものではないことその判文上明白であるから、右違憲の主張はその前提を欠くものであり、その他違憲の主張があるけれども所論の実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰するものであつて、すべて少年法三五条所定の適法な再抗告理由に当らない。従つて本件再抗告は不適法として棄却を免れない。(なお本件再抗告申立書は、少年の法定代理人○野○み並びに附添人と称する○野○次郎及び同○林○夫三名連署にかかるものであるが、記録によれば、右○野○次郎は少年の伯父であり、○林○夫は少年の中学校教師であることが認められるにすぎず、附添人となるについて許可を受けたものではないこと明らかであるから、少年法三五条に定める抗告権者に当らない、それ故右両名の本件再抗告はこの点において、すでに不適法たるを免れない)

よつて少年審判規則五三条一項、五四条、五〇条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

少年H

再抗告申立の趣旨

Hは昭和三十六年十二月二十九日、旭川家庭裁判所において、少年院送致する旨、保護処分の決定(旭川家庭裁判所、昭和三十六年(小)第一、七三七号)を受けました。

此の決定に対し、抗告中の処、昭和三十七年二月十六日、札幌高等裁判所において棄却決定の通告(札幌高等裁判所、昭和三十七年(く)第二号)を受けましたが、下記理由により、不服であり、即時保護処分の取り消し方を御願い致したく、茲に再抗告を申立てます。

再抗告の理由

(1)  憲法違反行為によつてなされたる保護処分は不当措置であり、亦此の様な不当措置に基いて執行されたる少年院送致は不法なる心身の拘束をなし、憲法に規定せる基本的人権の侵害、その他数多くの条項違反行為に通じ、至急処分取り消しを申立てます。

(2)  憲法解釈上において大なる誤りを犯しており、かかる見解に基いてなされたる処分決定は不当行為であり、正当なる処分とは云い難く、失効行為に外ならず、よつて至急処分取り消しを申立てます。

以上二項目の理由により再抗告を申立て、此の概要を別記により記載致します。紙数の都合上、その詳細は記載出来ませんので、去る三月五日付、札幌高等裁判所宛小林敏夫手記による本件に関した請願書、及び一月三十一日発信による嘆願書等を御参照の上公正なる御裁定を御願い申し上げます。

尚決定文書中に示されている昭和三十六年十一月二十一日より同年十二月二十三日在学校終業式(第二学期)当日に至る約一ケ月の試験観察中、本人の言動を記載せる家庭(保護者)と通学校(現二年学級担任)との日誌記録を提出致しますので、此の記録により、判決文にある如き重大な非行なき事を良く御検討方御願い致します。

結論として、正当なる理由なくして、心象と云う美名の下に、合理性に基かずして、感情的措置をもつて本少年を不当拘束するは憲法違反行為であつて基本的人権侵害も甚だしく、貴最高裁判所の御審議により、かか不当拘束の早急なる解決を宜しく御願い申し上げます。

(1)  憲法違反行為について

本少年は世間で数多く見受けられる普通少年の一人であり、何等少年院送致を受くべき正当の理由なく、それにもかかわらず今回、少年院送致の保護処分決定をみたるは不当措置であり、此の強制執行は憲法第一一条(基本的人権)、同第一三条(個人尊重)、同第一四条(法の下の下等)、同第一八条(奴隷的拘束及び苦役からの自由)同第一九条(思想及び良心の自由)、同第二二条(居住、移転、職業選択の自由)、同第二三条(学問の自由)、同二五条(生存権)、同第二六条(教育を受ける自由、権利)等数多くの違憲行為であつて、少年であつても、国民の一人である事に変りないのは云う迄もない処であり、少年保護の美名の下に、かかる不当侵害行為は甚だ迷惑でありますので、早急に処分取り消し方、再抗告を申し立てます。

少年院送致の不当なる理由は、第一審旭川家庭裁判所(以下家裁と略称)において、次の如き重大なる誤審をなしているからであります。

(イ) 重大なる法令違反

(ロ) 重大なる事実誤認

(ハ) 著しい不当処分

以上三点に関し重大な誤りを犯しているにもかかわらず、法の強権を楯にして、一方的独断専行を敢えて強行しているから数々の不当不法行為が当然生じてくるのであります。

茲に上記三項目の誤審事実につきその主なる事項のみ要約して記するならば、

(イ) 重大なる法令違反について

(1)  民法と少年法との適法行為の誤審事実が先づ第一に挙げられなければなりません。

そもそも本件に関する一連の保護事件は、昭和三十六年十一月一日、家裁に保護者及び本人が出向いた時、同日旭川少年観別所に強制入所を執行されて約三週間入所、昭和三十六年十一月二十一日、出所と同時に、家裁調査官による試験観察期間を約一ケ月設定される其を築き、同期間終了と同時に、同年十二月二十五日審判呼び出し指定日となつており、一環性をもつて措置されている為に、最初における出頭時より再考して頂かなければ、此の不当性も御了解しがい事と存じます。

前記十一月一日、最初の出頭は、家裁より呼び出し状を受けての出頭に非ずして、民法第八二二条の規定に基き、親権の懲戒権行為について、家裁に相談の為出向いたのであります。

然るに家裁は出頭者の意志を全く無視して、何等の相談もなくして、何時の間にか当該事項を少年法適用にすりかえてしまい、民法まで無視するの暴挙を、法を最も忠実に遵奉すべき筈の裁判所が敢えて強行するの不法行為を犯してしまいました。

現学級担任(本人二年進級時、学級編成替えにより、中学一年時とは別教諭による担任となりましたので、以後一年時学級担任を旧担任、現二年時学級担任を現担任と略称致します)よりの要請に基いて、止むなく、かかる出向をいたしましたが、若し此の際出頭せざれば、観別所入所もなければ、それに引き続く調査官による試験観察も行われず、依つて此の試験観察期間中の動向に基いてなされた少年院送致も亦当然執行されなかつた筈であり、事件頭初においてなされたる違法行為が無効である以上、爾後における一連の措置もすべて無効行為であり、若し此の間において何等特別の事犯の起りたる際は、別途の立場において措置されねばならない処であります。

以上の如くして、少年法適用の正式手続きを経ずしてなしたる出発点における最初の審判は無効であり、民法適用希望者に対して少年法適用行為は家裁の独善行為であつて当然、行き過ぎでありまして、少年法適用の審判権は何等その根拠を有しておりません。

依つて審判権なき者に対して、法の強権を以つて不当拘束するは基本的人権の侵害であると共に、法に規定せる保護者の親権侵害行為にも通じ、不当、不法行為に外ならず、これに関連せる最終段階として執行されたる少年院送致も違法行為に基いてなしたる失効処分であつて、その正当性なく、当然速やかに処分取り消しがあつて然るべき処であろうと思考されます。

(2)  執行停止中の同行状を、同期間中に於いて何等緊急なる事態の生じないにもかかわらず、独断強制執行は違法行為であり、然も尚此の停止期間中にもかかわらず、審判を突然開廷してなしたる決定措置は、違法に基く失効行為であつて、正当性なき少年院送致であり、即時その取り消しを請求致します。

亦、此の執行に際しては、送致決定の審判前における現状を無視して送致執行時における同行状と同様措置を以つて対処され、手錠の使用、同夜旭川少年観別所に不当勾留の強制執行を受けて、不当なる人権侵害を受け、予期せざる事態の急変に本人の心身は不当拘束により極度に疲労、気も動天し、不安と寒さとの為、安眠出来得ぬ一夜を明かし、その翌朝本人が心身喪失の状況下にあるにもかかわらず、審判を中止する事なく続行し終審閉廷となりたるは、不当措置であり、若し前記停止期間中における同行状の執行、及び審判行為が有効措置であり得たとしても、上記の如く逃亡の憂いなきにもかかわらず、不法なる手錠の行使、及び同夜の不当勾留に基く心身喪失の状況下にある本人の現況を何等の考慮をなす事もなく、それ以上の冷酷なる言動を以つて裁判官は臨み、本人の言動、その意に反する処多しと益々心象を害して少年院送致に至らしめたるとの状況を促聞し、甚だ遺憾に思い居ります。

此の項における一連の不当行使は、憲法第三一条(法定の手続きの保障)同第三三条(逮捕の要件)、同第三四条(不当拘禁の保障)等の条項に違反する行為であり、かかる違憲行為に基いてなされた審判は不法なる失効行為であつて、その正当性無く、よつて当然取り消されるべき無効処分であります。

尚此の間の概況を要約するならば、前記十二月二十五日審判呼び出し指定日でありたるも、本人は少年院送致をおそれて、出頭したがらず、(その理由は終審前にもかかわらず、その数日前に於いて十二月二十二日現学級担任より、保護者も学校に呼び出しを受けて、少年院送致を覚悟する様にと宣告され、母子共に悲嘆致しておりましたが、審判権を有する裁判官が決定宣告前において、審判権なき現担任が宣告するのは不法越権行為であろうと思われますし、亦此の様な事が当然の事として平然と措置する現担任の良識を甚だ疑問に思い居る処であり、此の様な予告宣言がなければ、本少年は何のためらいもなく、二十五日の指定日に出頭出来得た事と存じます)よつて二十七日夜、漸く本人の出頭承諾を得たので、翌二十八日午前九時三〇分前後、家裁に出頭の可否を連絡し照会したる処、二十八日は御用納め日、二十九日より一月三日迄御用休み、一月四日御用始めとなる為、一月五日午前中に出頭する様にとの回答を家裁調査官より確答を受けました。

出頭待機していた本人及び保護者も安堵し、一応安心した年末年始を楽しく過ごし得る事を喜びおりました。

同日午後一時頃、近所の友達が映画を誘いに来たので、母も承諾し、観覧に出かけました。

処が午前中一月五日出頭と回答し、本人及び保護者を安心し喜ばせておき乍ら、その後何等の連絡なきにもかかわらず、突然映画館内において警察官及び家裁職員により同行状を執行され、然も翌朝の審判時に於いて、映画館内に於いて同行状を執行されるとは本人の行動至つて不謹慎にして、亦家庭の観護甚だ無責任と裁判官の心象を随分害したるとの事、心外なのは、むしろ本人及び保護者の方であり、此の様な一方的不当行為を正当化出来得る法の強権を楯に出来る立場にある人々は全く恵まれた存在の人々と、云うべき言葉もない処であります。

それに反して、此の不法措置に対して何等の抵抗も出来得ず、若し亦多少でも抵抗しようものなら、直ぐに公務執行暴害等の罪名を着せられ、不当措置として避け様とすれば逃亡の虞れありとして、益々強権行使となつてしまいましようし、法を楯にせる家裁の奴隷的拘束を余儀なくさせられる我々国民一般大衆は全く弱い立場にあり、法の濫用は甚だ迷惑であつて、遺憾とする処であります。

以上の如く、正当なる法的手続きによらない審判は不法行為であり、特に上記の様な数多くの違憲行為に基いてなされたる不当処分は、憲法第九八条(憲法の最高法規性)により、その条規に反する法律命令等の行為は、全部又は一部は効力を有しない処でありますので、依つて今回の保護処分も不法審判に基いてなされた決定である為に、その効力を有せず、至急処分取り消し方を御願い致し、若し必要ある際は改めて審判なし得る正当なる手続きを得て開廷、正常なる状態に於いて、然も公正なる立場を堅持されて一方に偏する事なく、充分納得の行く裁定をすべきであろうと思考されます。

此の項については以下省略致します。

(ロ) 重大なる事実の誤認について

普通、刑法にふれる様な非行少年であつてさえ、保護者と共に少年の弁議に当たるべき学級担任が今回においてはその正反対であつて、現担任は本少年の少年院送致を、心秘かに望みおりたる様な不当措置が幾多なされており、現担任と住居の近接せる家裁調査官は、現担任の立場を尊重して支持する処となり、裁判官は調査官の立場を尊重して、その意向を支持する事となり、結果的には現担任の希望する通りの状態をもつて終結なし得たる事となり、本少年はその犠牲者の観あるを、高等裁判所は原審よりの調書によつて察知して頂ける事と思つていましたが、そのまま原審を容認されたる事は甚だ残念とする処であります。

最終審判時において、本人及保護者の発言もあまり許さず、裁判官は御用納め後における審判なる為か、十二月二十九日における当日は、少年法第二二条(審判の方式)に規定せる懇切さ及びなごやかさが全く無く、終始不気嫌であつて、とりつくいと口とてなく、多少釈明せんとすれば、聞かないでも前の審判で判つているからと発言を封じ、前回の審判で既に了承済みとあれば、今回の最終審判も何の為に審判せんとするのか疑問に思われる処であり、少年院送致執行を前提条件として単に形式的審判にすぎなかつた感があります。

少年院送致後において、前記現担任と家裁調査官との住居近接せる事実を知り、若し事前に了知していれたならば刑事訴訟法第二六条(裁判所職員の忌避)により忌避申立てをなし得たのでありますが、爾後の為甚だ残念に思いおります。

本少年に関する調書は以上の如く、本少年の少年院送致を望み居る現学級担任の誇張せる意志表示を骨旨とし、忌避されるべき家裁調査官による一方的見解に基く調書により審判されている事は重大なる事実誤認を犯してしまつている事を御理解頂いて公正なる御裁定を御願い致します。

かかる現状に於いてなされたる審判は公正さを欠くのが普通であり、故に判定書に記載の通り何等刑法にふれるが如き現行犯にも非ざれば亦重大なる過失等に基く虞犯行為の憂いなきにもかかわらず、少年院送致を執行される事となつてしまいました。

証明されるべき犯行事実、虞犯事実は全くない処であり、以前における多少の過失を以つて常に不当判断をなせるは、憲法に規定せる第三九条(刑法の不遡及、一事不再理)に違反する行為を敢えて無視するが如く強行審判の続行をなし、独善的に終始されてしまう事となり、事実と全く相反する調書の作成となつてしまい、調書に対しては不信の念を禁じ得ぬ処であります。

前記十一月一日に満十四歳に達して家裁出頭資格が出来たので、家裁調査官で良く知つている調査官がいるから出頭してみる様にと、別に大した出頭理由もないのに保護者に要請し、昭和二十二年十月二十九日の出生である為、満十四歳に達して僅か三日目の出頭にかかわらず、同日前記の如く少年観別所入所となりたるのも現担任の指導によるものであります。

亦高等裁判所に抗告時、嘆願書作成を保護者、親戚、町内会有志等が意図を有し現担任に相談したる処、表面的には今回の少年院送致は意外であり、自分の責任ではなく、家裁であるとその責任を回避するの言動をなし、若し事実意に反した送致であるならば、当然嘆願書にも直ちに賛意を表すべき筈の処でありますが、今入所したばかりですぐ出所するのは、本人の為にも良くないので、入所した以上、むしろ一年位居た方が本人の為であると仲々賛成してくれず、若し出所したとしても現在校に帰校せず、他校転出すると云ふのであれば嘆願書は書かないが副申書位なら、作成する様学校当局に申請手続をしてやろうとの条件により、出所後は例え如何なる生活になろうとも母子共々一緒に暮らしたいのは人情の為として当然の処でありますが、止むなく表記の如く近郊に局住せる伯父宅に起居するを条件として漸く了承を得副申書を作成して頂いた現状も良く御了解願いたいと存じます。

普通教育における義務教育において、かかる侵害行為は明らかに越権行為であろうと思われ、若しこれを容認するならば、憲法に規定せる基本的人権の侵害行為であると共に、保護者に対する親権の侵害行為でもあり、亦同法における奴隷的拘束を容認する事に通ずる処であり甚だ遺憾とする処であります。

以前多少の過失行為ありたるとしても中学一年後半よりは何等重大なる過失もなく、同二年一学期末迄真面目に生活していたにもかかわらず、ふとした出来心による以前の過失行為をもつて特別視し、既に二年進級時に於いてすら、此の少年は最底の非行少年で、誰も担任する教師もいないので、止むなく自分が引き取つた少年であると、一部の人々に公言され、本人及び保護者も共に幾度となく不快な感を抱かされておりました。

止むく旧一年担任に、一年在学時その様に悪い少年であつたのだろうかと聞いてみました処、何等その様な迷惑を感じたる事とてなく、普通少年であり、不用な心配はしない様にと聞かされ一応安堵は致しましたが、本人と現担任とは性格を全く反し、相容るる処なき様子を蔭乍ら案じておりましたら、結局此の様な結末をみる事となつてしまいましたのを非常に残念に思いおります。

然し、本少年は通学している教育関係の事であり、なるべくならば此の実状にも余りふれる事なく、本人の素行悪きが故に保護処分の決定として、抗告時に於いてすら、此の実情は何等記する事なく、情にすがる嘆願のみに止どめ居たのであります。

某弁護士に意見を聞きましたる処、何等大した事犯もなくて、単なる犯行の虞れありとしての送致である以上、嘆願書のみにても家庭復帰が可能ではなかろうかと申してもくれましたので、なるべく教育関係の事にはふれたくない所存でおりました。

然るに今回、抗告棄却となりたる為、本人の重大なる非行事実なき事を証明せんとすれば、致し方なく多少教育関係にふれねばならぬ事を余儀なくされ、亦前記一ケ月間の連絡日誌を提出する事により、本少年の動向を証明させなければ、本少年の人権回復出来得ぬ窮状に至つてしまいました事を残念に思いおります。

現担任のかかる行為に基く責任は、亦別途の立場により追及されるべき処であつて、今回は現担任、及家裁調査官に対しても何等個人的には怨みも憎しみも感じておらず、非難しようとする意図も有し居りません。

只本少年を弁護し、不当拘束に基く基本的人権侵害を一日も速く回復願いたいものと念願より、何時でも証言、証明出来得る事実を事実として卒直に記した次第であつて要は本少年の救出のみに外なりませんので、審査過程に於いて前記人々の過失、及び行き過ぎ行為等が明らかとなりましても、何等処罰の対照とならざる様御願い申し上げます。

以上此の事実を以つて判決文を御覧願える時、世間に此れ以上の少年が数多く、そのまま自由な生活を続けているにもかかわらず、本少年がそれ程の重大なる過失なくして送致決定となりたる原審裁定に対する不審点もある程度御了解願えたのではなかろうかと存じます。

判決文に示されている五項目を、旬日を出ずして遵守事項ことごとく違反するのみならずと明示してありますが、此の五項目とは、多分次の様な項目と記憶致しております。

一、夜間外出をしない事

二、悪い友達と付合わない事

三、四条二〇丁目米倉アパートに出入りしない事

四、真面目に学習する事

五、親の指導に良く従う事

要旨は以上の如き内容であつた事と思いおりますが、どの項目にしてみても、何処の家庭に於いてもその子弟教育にあてはまり得る普通条項であつて、何等特別な項目はなかつた事と思いおります。

窃盗、暴行、詐欺、恐喝等に関する遵守事項の規定でもあり、その各項目をことごとく違反なしての送致と云うのであれば、話しは亦別問題でありますが。単に上記の如き内容に於いて、多少此の項目に違反するが如き行為があり得たとしても、公衆に対して何等害を与えないとものであるならば、何処にも刑法にふれるべき悪行為はなく、単なる虞犯行為につながる行為とみるには、余りにも単純な本人動向である事は、日誌によりよく証明される処であり、然も、どの項目についても相当遵守されているにもかかわらず、ことごとく違反するとの表明は何等その根拠を有しておりません。

子供の事ですから、多少不注意なる事項があり得たとしても、何処の子供に於いても、良く見受けられる処であつて、特に本少年を少年院送致を強行せねばならない理由は全くなく、家裁の独善的執行行為に対する一反証事実として良く御検討方を御願い致します。

此の日誌は毎日母が記録し、本人が登校時携行し、毎日現担任が検印をなし、特に本人に関する非行事項等あれば、記入し家庭に連絡し注意を願う為の意図をも有し、試験観察中における一ケ月間の本人動向記録であると共に、学校家庭間の連絡記録でもあり、何等記入ない時は、記録に価すべき事項のあり得ざる日と家庭が解釈するのは当然とする処でもあります。

此の一ケ月間中において、一晩のみ知人宅宿泊なしておりますが、此れはその前日多少帰宅遅き為、親より相当きびしい説諭をされた翌日でありたる為、夢中になつて遊んでいる裡に時のたつのを忘れてしまい、気のついた時は相当時間も遅くなつていたので、亦前夜同様説諭される事を心配し、止むなく宿泊、その翌朝、連絡日誌を持たない為現担任より叱責されるを案じて、子供心に此れ亦一日欠席したるのみにて、その他についてはそれ程の大過もなく生活していたのは、後半における現担任より、十二月十二日付批評に於いて、夜間外出のなくなつたのは大変良い事と評している事実をもつて証明される事と存じます。

学校内における恐喝、暴行事犯については全く事実誤認であつて、単なる子供同志の良くある争い事を色眼鏡を以つて一方的偏見によつて故為になしたる誇張表言であります。若し此の様な事犯が数多くあれば、同校に勤務せる旧一年担任の耳にも当然入つていなければならない処と思われ聞いてみました処、全然その様な事は聞いていないとの事でありまして、此の様な事実はない事と存じます。

日誌中、十二月二十日付記録における現担任批評欄に、クラス内のたかり、お礼参り等相当あり云々の記入がありますが、此の様な事実も全くない処であり、此の現担任の批評が、そのまま調査官により調書となる時は、恐喝、暴力事犯等の不穏当なる字句となり、如何なる非行少年なるやとの錯覚を生じ易い言語の魔術に引き入れられてしまう事となつてしまいます。

只二学期末近くになつて次の様な誤認され易い事実がありました。

本人は色々と生きものを飼う事が非常に好きであり、現在も犬、金魚等を飼つておりますが、友人より鳩二羽を分けて貰う約束をし、月末に自分が行つている新聞配達の謝礼分より支払う予定であつた処、友人より急に二学期終了式迄に支払う様に云い渡され此の代金八〇〇円の支払いに困り、そのまま母に云つたのでは鳩を返す様に云われる事をおそれて、二〇〇円のみ母より受け取り、その差額六〇〇円を新聞謝礼受領迄一時友達より借り様とした事があります。

子供同志の金の貸借は、いけない行為である事は判り切つた事ではありますが、然し前記事情等による様な場合も、まま子供達の中で見受けたりする処であり他の子供であつたならば、それ程特記事項ではなかつたろうと思われます。

六〇〇円と云云は子供達にとつては仲々の大金である為、小額に分けて幾人かの友達より一時借用して代金支払いに充当しようとした処、その中の幾人かの生徒が、直ぐ現担任に告げ口をなしたる事を本人は他より聞かされてしまいました。

十二月二十日付前記批評欄末尾にある様に、何か本人の言動が現担任の意に副わない事があると、すぐ少年院送致を覚悟する様にと説諭され、おどかされる事を本人は非常に嫌つておりましたが、上記告げ口により亦現担任により呼び出しを受けて説諭される事になつてしまつたと思い、遂かつとなつて告げ口した友達と口論喧嘩となりたるのが実情であり、決して単なるたかり、お礼参り等の不穏当な字句そのものの表言する内容とは全く異なり、情状酌量の余地ある子供同志の争い事を此の様な表言する事、そのものにむしろ問題があると存じます。

十二月二十一日、二十二日の遅刻は、本人が居ない時、現担任が本人を罪人扱いして、此の生徒に何か被害を受けた者は何でも書く様にと無記名投票をなし、此れは例え如何に特別な立場にある教育の場であるとしても、特定個人を対照としての調査投票は明らかに基本的人権の侵害行為であり、此の様な事をされていると友達より聞かされれば、誰れにても不愉快になるのは当然の事、まして子供の事であれば尚更の事、楽しかるべき学校生徒が暗いものとなり、登校する足の重くなるのも同情すべき処であつて、如何なる気持ちで登校していた事だろうと今尚可愛想に思い居る処であります。

保護者の保護能力欠如との批判は、何を基にして評価されたる判決文なるや甚だ疑問と思いおりますが、親権喪失の宣告も受けておらず、亦毎日日誌を記入しては本人の観護に極力留意し、尚本人もその注意に対して極力遵守しようとしている状況も亦日誌によりよく証明される処であつて、判決文に明示せる事項は全く相反する記載であつて、何等少年院送致を執行せねばならない理由はない処であります。

尚判決文理由末尾に於いて送致理由の結論として、少年を少年院に送致する以外に適当な方策を見出し難いと云わねばならないので、原審の少年に対する措置はまことに相当であるとの事であります。

送致理由の基礎は全く薄弱であつて、是非送致しなければならない程の非行少年でない事は先づ明白であり、亦此の判決文に対して反論するならば、要は少年院以外に適当な方策が見出されるならば、何等少年院送致の必要はないと云う事になると存じます。

本少年の突然少年院送致の強制執行に偶い、これを心配したる為、当時未だ健康であつた父親も病床に伏し、去る一月十八日、此の本件に対する抗告手続中、その結果を案じつつ、死去したる為、母親のみでは現担任も家裁も保護能力云々するのは明白の事であり、依つて、去る一月三十一日提出せる各種嘆願書に於いて出所後の身元引受人を明示しておいたる次第であり、出所後の保護については何等心配もない処であり、住居も異にする為、当然通学校も変更となりて、現在校と離れ、現担任と一緒になる事もなければ亦友人等とも全く離れてしまいたる別個の生活環境となります為、最も良い方策を見出し得た処と云うべきでありまして、何等少年院送致をなすべき必要はあり得ない事と存じます。

以上の如くに、事犯事実について全く相反する調書記載作成は甚だ遺憾とする処であつて、何等送致を必要とする重大事犯とて全く無く、かかる重大な事実誤認行為に基いてなされたる決定措置は、その根拠を有せぬ不当処分でありますので、御審議の上、即時此の取り消し方を御願い申し上げます。

此の項、余り長くなりますので以下此の項については省略致したいと思います。

(ハ) 著しい不当処分について

上記の如く、重大なる法令違反行為、及び重大なる事実誤認に基いてなされたる決定処分は、当然不当不法措置であつて何等少年院送致となるべき正当の理由なく、それにもかかわらず此の保護処分を受けて、本少年の不当拘束を受けるは全く憲法に於いて視定せる基本的人権の侵害行為であつて、早急に此の不当処分取り消しを頂けます様再抗告を申立てるものであります。

(2)  憲法解釈の誤りについて

憲法第三八条(供述の不強要、自白の証拠能力)により、自己に不利益な供述は強要されない処であり、長く抑留、拘禁された自白は証拠とならないと規定され、亦何人も何人も自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は刑罰は科せられない筈であります。

処が本件の場合は、何等事犯に対する証明力を有せざる事項ばかりの記載であり、第三者による故意の中傷言辞を基にして、本人の自白を強要し、調書に記載されている過去事項も亦その殆んどが本人の自供を基にして作成されたるものであろうと思われます。

それにもかかわらず、少年保護の美名を以つて、何等事犯なき者を虞犯の虞れありとして単なる本人の自供に基いてなされたる調書のみを以つて審判するは不当行為であり、例え少年でありても、此の条項は国民の一員として当然同様の効力を有すべきであつて、此れを無視して少年法独特な運用を以つて可とするのは違憲行為と解釈致しております。

憲法第三七条(刑事被告人の諸権利)に於いて、証人に対して充分なる機会が与えられ亦弁護士に依頼する権利があたえられているにもかかわらず、少年法適用により虞犯行為の審判行為にては、何等その様な機会も与えられず、家裁の独断専行による審判は此の条項に反する違憲行為と思われます。

あまり紙数が多くなりますので此の項について以下省略致したいと存じます。

以上何れの項目においても、今回の少年院送致は不当措置であつて、憲法に規定せる基本的人権侵害その他幾多の違憲行為をなしておりますので、早急に人権回復出来得る様、保護処分の即時取り消しを御願い申し上げ此の文を終りと致したいと思います。

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